体調を記録するアプリを作っている。きっかけは、知人から聞いた一言だった。
診察室に入って最初に聞かれるのは、たいてい「最近どうですか」だ。これにうまく答えられない、という。
答えるべきことは分かっている。前回からの数週間で調子がどう動いたか。悪かった日がどれくらいあったか。何かきっかけがありそうだったか。数分で伝われば話が早い。
それなのに、口から出るのは「まあ、ぼちぼちです」になる。
同じ話を別の人からも聞いた。性格の問題ではなさそうだった。
思い出せない
理由は、聞いているうちに共通して見えてきた。
思い出せるのは直近の数日と、特に強く印象に残った日だけだ。その間にあった二週間ぶんの、少しずつ違う日々は出てこない。毎日の細かい違いをそのまま覚えていられる人のほうが、たぶん少ない。
厄介なのは、しんどい日ほど記録が残らないことだ。
記録が役に立つのは調子が悪かった日を伝えるときで、その日はいちばん書く余裕が無い。元気な日の記録ばかりが残って、伝えたい日が抜ける。
手帳やメモアプリで続かなかった話も何度か聞いた。根性の話ではなく、この順序に負けている。
作ってから直したところ
そうしてアプリを作り、いまは知人に使ってもらっている。想像していたことと、実際に使って困ることは、だいぶ違った。
声で答える部分は作り直した。最初は、一度マイクを開いたら止めるまで聞き続ける形にしていた。長く話しても、言葉を探して黙っても切れない。そのほうが親切だろうと考えていた。
使ってみると、問題は別のところにあった。いま聞かれているのかどうかが分からない。黙っている時間が、考えている時間なのか、もう切れた時間なのか、画面から区別がつかない。
ボタンを押している間だけ聞く形に変えた。一度に話せる長さは短くなった。ただ、指を離せば必ず止まる。それだけで迷いが消えた。
もう一つは、気圧とその日の調子を並べたグラフだ。線は引いてあるのに読みにくい。たどっていくと、どこが平常なのかが図の中に無かった。山や谷は見えても、その高さを比べる相手がない。基準の線を一本足した。
どちらも同じところでつまずいていた。いま何が起きているのかが、画面から分からない。しんどい日に開くものなら、なおさら考えさせない方がいい。
アプリがなくてもできること
ここまで読んで「たしかに困っている」と思った人のために、アプリの話は抜きにして書いておく。
その日のうちに、ひとことだけ残す。 文章にしなくていい。「だるい」「よく寝た」で足りる。読み返すときに役に立つのは、文章の質より、その日に何かを書いたという事実のほうだ。
良い日も書く。 悪い日だけ書くと、見返したときに毎日悪かったように見える。比べる相手がないと、悪さの程度が伝わらない。
診察の前に、書いたものを一度通して読む。 話せる量がいちばん変わるのはここだ。数週間ぶんでも、二、三分あれば読める。
紙の手帳でもメモアプリでもできる。続く方法を選んでほしい。
最後に
私が作っているのは、この三つを一人でやらなくて済むようにしたアプリだ。毎日ひとこと答えると記録が残り、診察や面談の前に、期間を選んでまとめが作れる。